ジ…、ジジ… 、ジワぁ…⤵︎
変な鳴き方やなぁ
と思って見上げると、桜の幹にカマキリのカマにガシッと抑え込まれて今にもかじられんとするアブラゼミの姿がそこにあった。
断末魔ってやつか、救けたほうがいいのかな?
でも、カマキリだって食べないと生きていけないし、「哀れにも生き物は互いに相食み合う」ということか…、と妙に神視点。
ジワッ! ジワワワワッ!!
突如、セミが抵抗を始めた。
既にかじられているのに、バサバサと歪んだ羽を羽ばたかせて逃れようとしている。
だが、おそらく逃げるのは不可能だろう。
カマキリの両のカマは、しっかりとセミに食い込んでいる。
それでもセミは「諦めたくない!」とでも言わんばかりに、必死に抵抗を続けていた。
セミ…
お前、生きたいんだな、ならば力を貸そう!
私は、近くに落ちていた枝を拾って桜の幹に腕を伸ばした。
枝の長さが足りず、届かない。
届かないならと、その枝をカマキリに向かって投げたが外してしまった。
足元のどんぐりやら小石やらを次々と拾っては、カマキリに向かって投げる、全然当たらない。
もう投げるものが無い!
枝、長い枝…
必死で探す、もはや神視点ではなく、私は完全に当事者になっていた。
絶望的な状況に置かれながらも、生きることをあきらめないセミに、いつの間にか自分を重ねていたのだ。
汗をかきながら、足元の小石を拾っては投げ、枝を探して歩きまわる私を、不思議そうに見ていたおばさんと目があった。
おばさんは、気まずそうに会釈して去っていった。
変な奴やと思われたんやろうなぁ、でも、構うもんか!
セミは生きることを諦めてはいない!
だから私が助けるんだ!
諦めずに頑張っている者には、必ず誰かが手を差し伸べてくれるんだ!
たった7日間の命、カマキリに食われて終わり…、なんてことには私がさせない!
探し回った結果、椅子の下にゴムの長い棒が落ちているのを見つけた。
再び桜の幹に向かって腕を伸ばした、長さは充分あるのだが、ゴムなのでしなってなかなか届かない。
汗だくでカマキリを狙い続けた結果、ついに当たって、セミとカマキリは茂の中に落下した。
カマキリは見つけたが、セミが見えない。
どうやら引き離すことには成功したが、セミはどうなったのか?
ジ、ジジ…。
セミ!
生きてるよぉ
茂みの奥の方から、セミが答えた。
よかった、重症だろうけど、7日間の命、全うしてね。
心からほっとした。
自己満足かもしれないが、厳しい状況の中そのことを忘れ、他者(と言っても虫だけど…)のために必死になれた自分がちょっと嬉しかった。
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