胸が締め付けられるような思いにさせられる一冊です
清水久典『死にゆく妻との旅路』(新潮文庫)
保証人となっていた友人が逃げた為、突然借金を背負わされた夫、大腸ガンで手術をした妻。
手術の3カ月後に、夫は妻の病気の再発を告げられます。
その二人の逃避行の旅をつづった手記です。
スポンサーリンク夫の決意
旅の途中、妻はワゴン車の中で息を引き取るのですが、物語は夫の取り調べ室でのやり取りから始まります。
「ホゴシャイキチシ」
刑事の口から出た言葉は、聞いたこともないものだった。
【保護者遺棄致死】
私の名の横にそう書いてあった。
清水久典『死にゆく妻との旅路』(新潮文庫)より
悲惨なニュースが後を絶たない世の中で、借金苦やガンは、さほど珍しい話ではないのかもしれません。
そして、誰しも借金など背負いたくないし、ガンにもなりたくないでしょう。
私もそう思いますが、一方では、この夫婦をとても羨ましくも思いました。
ー 逃げる…。
唐突にそんな言葉が頭に浮かんだ。
…逃げてひとみとどこかでやりなおそう。落ち着くまで、いろんなところを一緒に見てまわろう。時間はない。ひとみはいつ再発するか、わからないのだから…。
ー 卑怯と言われてもかまわんわ
自己破産をやめて、逃げる決意をした夫に妻が言った言葉は
「私はそれでええよ、オッサンと一緒なら」
でした。
妻の想い
妻の言葉は女性として共感できるものばかりであり、それに対する夫の言葉や行動に、また胸を打たれます。
「ひとりは嫌やよ、オッサン」
「”お母さん”いうのも、何やね」
「これからは名前で呼んでほしいわ」
病状が悪化していく妻に、夫は病院へ行くことを勧めますが、その時の妻の言葉は
「入院したら、また離れ離れになるわ」
でした。
それだけ言うと、また黙ってしまうのです。
妻の願いはいつも一つだけ。
「一緒にいたい」
ただそれだけでした。
誰かと一緒に生きるということは、その人のもとで死ぬということ
妻の死語、留置所の中で夫がつぶやきます。
「すまんかったな」
言葉が口をついて出る。突然、視界が澱んだ。
「ひとみ…」
涙が溢れて止まらなかった。
自分が死ぬのは怖いし、誰かが死ぬのはとても悲しいことです。
それでも…。
誰かと一緒に生きるということは、その人のもとで死ぬということ。
それをまっとうできたこの妻は、私はとても幸せだったと思うのです。
スポンサーリンク娘からの手紙
旅の途中、夫が受け取った娘からの手紙にもまた感銘を受けました。
昔から挫折は早い方が良いと言う。
なぜなら苦労した人や、どん底を経験したことのある人は、芯のある人間になれるから。何も苦労をしたことのない人は毎日、楽な道しか選ばずに、壁にぶつかった時、何もできない。
(中略)
お父さんはもう疲れてしまったかもしれないけど、今から始まるのです。私のお父さんはどこまでがんばれる人なのか、どこまで耐えられる人なのか。
お父さん、強い親子になりましょう。今からが世間と勝負。
清水久典『死にゆく妻との旅路』(新潮文庫)より
まとめ
実は、著者の清水久典氏は作家ではありません。
驚くべきことに、この物語は実際に起こったことで、正真正銘のドキュメンタリーです。
ホントにあったお話なのですよ。
悲しいけど清々しい、そして切ないこの思い。
一人でも多くの方に、是非とも体験して頂きたいと思います。
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