【相続対策の失敗を防ぐための実例から学ぶ!】トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策 吉澤諭著

先日、保険会社が主催の「相続対策」のセミナーに参加しました。
その時に講師を務めていたのが、著者の吉澤諭さんです。

吉澤先生は、税理士ではなく、弁護士でもなく、相続や事業承継、遺言等、主に相続周りのコンサルをされています。

コンサルをやっている方ならわかると思いますが、「事例」はお客様に刺さります。

法律や制度の話は、わかったようなわからないような表情で聞いている方でも、実際にあった事例の話になると、身を乗り出して聞かれる方が多いです。

理解できると「もっと聞きたい、もっと知りたい」と思うようになるんですね。

この本は、実際のトラブル事例を集めた本ですが、それだけではなく、対処法や「本来、相続にはどういう視点で取り組むべきか?」についても非常にわかりやすく書かれています。

セミナー・研修1,200回、携わった個別相談案件4,200件超の「相続のプロ」が書いた本です。
「相続」が気になる方は、ぜひ読んでみてください。

近代セールス社
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トラブルケース09 (p.68) 「贈与された自社株の評価を高めたのは兄の功績だが…」

トラブルの経緯

 父は、65歳になったのを機に、自身が創業した会社を長男に任せ、同時に会社の株式(以後「自社株」という)もすべて長男へ贈与し、以降は相談役として時々会社に顔を出す程度で、ほとんど経営には口出ししなかった。父から会社を継いだ当時、長男は40歳であった。贈与された自社株の評価は200万円、経営は苦しい状態であった。長男は、そこから頑張り、経営を起動に乗せた。

『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』吉澤 諭著 近代セールス社より

この長男は、本当に頑張ったそうです。
それこそ寝食を惜しまず働いて、立派に会社を立て直したのです。

 父が死亡した、享年78歳。父の相続人は、長男、ニ男の2人。母は昨年死亡している。父の財産は、自宅(相続税評価額 2,000万円、時価3,000万円)しかなかった。
 遺言がなかったため、息子2人で遺産分割を話し合うことになった。

『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』吉澤 諭著 近代セールス社より

当初の話し合いの内容は、以下の通りでした。

—長男の提案

自社株200万円+自宅3,000万円)÷ 2人=1,600万円/1人

—二男の主張

(自社株6,000万円+自宅3,000万円)÷ 2人=4,500万円/1人

人としては正しくても、法的には…

長男の考え

 長男は、会社を承継した当時、あまりに経営が杜撰ずさんで先行きが暗いことにショックを受け、「このままではいけない」と一念発起し、寝食を惜しまず働き、勉強し、営業し、開拓し、当時5名しかいなかった従業員は、父死亡時50名になっていた。借金も完済し、現在は優良企業に育っている。

『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』吉澤 諭著 近代セールス社より

以上のことから、長男は次のように考えていました。

—倒産寸前の会社を立て直したのは自分であり、そこに父の関与は一切なかった

—父の面倒を長年見てきた寄与分があるはず

⇒ 経緯や状況を踏まえて判断してほしい

二男の考え

 二男は、長男だからという理由だけで会社を継ぎ、高級を得、地位も名誉も手に入れ、周囲からチヤホヤされ、自由に会社を差配し、親からも頼りにされている長男のことを面白く思っていなかった。先に生まれてきただけで生き方に差をつけられるのは差別だと思っていた。常に兄のお下がりばかり着せられていた自分の悔しさは、兄にはわからないだろうと思っていた。「隣の芝生は青い」… 、サラリーマンの二男には、会社を建て直した長男の苦労はわからないだろう。

『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』吉澤 諭著 近代セールス社より

兄がどれだけ頑張ってきたかは、外からではわからないものです。
必然的に、二男は次のように考えました。

—長男という理由だけで会社を継げ、高給を得、地位も名誉も手に入れ、周囲からチヤホヤされ…

—生まれてきた順番だけで差がつくのは差別である

⇒ 法的なルール通り対応してほしい

相続と相続税は違う

結論から言うと、今回の件は法的には二男に軍配が上がります。

相続税の対象財産として、自社株は、仮に相続発生前3 (7)年以内の贈与であれば(令和6年1月1日以降、加算期間が3年から7年に順次延長されます)、贈与時の評価額で持戻されるので、相続税評価額は200万円ということになります。

ところが、遺産分割の対象財産としての自社株は、「特別受益(財産の前渡し)」として、相続時の時価で持戻されます。

つまり、自社株の価額は、遺産分割では6,000万円で、相続税の評価額は200万円ということになります。

相続の話をするなら「民法」、相続税の話をするなら「相続税法」、照らし合わせるべき法律が違うのです。

税理士さんと弁護士さんで、相続で話が噛み合わないことは、実はよくあることだそうです。

 長男が贈与された自社株評価は、贈与当時200万円だったが、父死亡時には6,000万円まで上昇していた。そこで、遺産分割は、現在価値の6,000万円を相続発生時の財産に加算して話し合うことになる。

(中略)

 つまり、本件は二男の主張が(法的には)正しいことになる。一方、長男の主張にも、「もっともだ」と理解できるところがあり、(人としては)長男の主張が正しい(と、少なくとも筆者は思う)。この辺が相続の難しいところだ。

『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』吉澤 諭著 近代セールス社より

「誰が株価を上げたか?(長男)」ということは、一切関係なく、残念ながら「人としてどうか」と法律は無関係なのです。

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トラブルケース15 (p.118) 「孫を生命保険の受取人に指定したことで、大失敗に」

トラブルの経緯

 母が死亡した。相続人は長男と長女、二女の3人。長男は母と同居しており、長女と二女は別世帯であった。

 母は、銀行の担当者から「相続対策として生前贈与が有効。特に、孫への贈与は相続開始前3年以内の財産持ち戻しの対象にならないので即効性がある」と言われ、同居し可愛がっている孫2人(長男の子)へ毎年現金を110万円ずつ生前贈与していた。

 ところが、孫が母(孫から見たら祖母)死亡に伴い生命保険金を受け取ったため、相続発生前に孫へ贈与した現金110万円× 3年× 2人=計660万円が相続財産に加算され、さらに孫が負担する相続税が2割増となってしまった。

 また、長男の子にだけ贈与していた〝偏った贈与”も表面化し、長女および二女から「孫への贈与を考慮した遺産分割にすべき」と主張され、争続に発展してしまった。

『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』吉澤 諭著 近代セールス社より

銀行員の言った

「相続人ではないお孫さんへの贈与は、持戻しの対象外」

というのは、正しくは

「相続または遺贈により財産を取得しない人への贈与は持戻しの対象外」

ということです。

つまり、孫2人は相続人ではありませんが、生命保険金を受け取ったことで、「相続または遺贈により財産を取得した者」になってしまったのです。

解説

 まず、前提となる「相続発生前3年以内の財産持戻し」のルールを正確に理解すべきである。銀行の担当者が助言した「孫への贈与は、相続開始前3年以内の財産持ち戻しの対象にならない」は間違いであり、正しくは「相続や遺贈により財産を取得しない人は、相続開始前3年以内に被相続人から贈与によって取得した財産があっても、その財産を相続税の課税財産に換算しなくて良い」である。
 つまり、たとえ(相続権を有する)配偶者や子に贈与したとしても、その配偶者や子が相続や遺贈により財産を取得しなければ、相続開始直前に贈与された財産があっても、相続財産に加算されないのだ。
 逆に、(相続権を有しない)孫や親族外の第三者に贈与したとしても、その人が相続や遺贈により財産を取得したのであれば、相続開始前3年以内に贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算することになる。
 相続税、納税義務のある受贈者が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人である孫を含む)及び配偶者以外の場合、負担する相続税は2割加算される。

『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』吉澤 諭著 近代セールス社より

以下が、ポイントのまとめとなります。

相続開始前3年以内の贈与財産持戻し

相続人ではないお孫さんへの贈与は死亡前3年以内の持戻しの対象外ですから即効性があります。」

というのは正確ではない。
正しくは…

相続又は遺贈により財産を取得しない人への贈与は死亡前3(7)年以内の持戻しの対象になりません。

  • 相続人かどうかは関係ない
  • 「相続又は遺贈」であり、(相続は相続人だけだが)遺贈は相続人以外へも可能
  • たとえ相続人であっても、相続しなければ死亡直前の贈与があっても持ち戻されない

結果

1.110万円×2人×3(7)年=660(1,540)万円が相続財産に加算され

2.孫が負担する相続税額が2割増し

3.偏った贈与が長女と二女に発覚し争族に発展

このようなことにならないためにも、遺言の有無や、死亡保険金等の受取人の確認など、よくよくプロに相談することが望ましいと言えるでしょう。

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相続対策とは(3本柱)

吉澤先生のセミナーで、「相続対策の3本柱」というのを教わりました。

  • 相続税 10件中9件の相談がこれ(払う税金を安くしたい)
  • 遺産分割 実際に相続が発生したら多くなる相談
  • 納税資金 相続対策はここを言う

重要なものの順位をつけるなら…

1位 遺産分割

2位 納税資金(「現金」払い)

3位 相続税

だそうです。

「分けられて、お金がもらえて、1円でも安い方がいいよね」 というのが順番では?

ということです。

なるほどね…

と思いました。

確かに、私自身も相続税に関して質問されることがあり、その都度調べてピンポイントで回答していたのですが、なんとなく違和感というか「物足りなさ」みたいなものを感じていました。

ピンポイント回答では、全体像は伝わらないからです。
全体が見えないと、個々のリスクも把握できません。

そういう肌感覚でわかっている感じのことを伝えられなかったので、物足りなさを感じていたんですね。

本書の事例も、遺産分割、相続税対策、納税資金・その他の3つにそれぞれ分かれています。
そして、それぞれの事例に「どうすればよかったのか」のアドバイスも書かれています。

一般の方でも充分に理解しやすい内容なので、

将来、相続が気になる

という方は、ぜひご一読されることをお勧めします。

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